が仕合せなら、それでたくさんじゃないか」という顔つきをした。
お延は自分がかりそめにも津田を疑っているという形迹《けいせき》をお秀に示したくなかった。そうかと云って、何事も知らない風を粧《よそお》って、見す見すお秀から馬鹿にされるのはなお厭《いや》だった。したがって応対に非常な呼吸が要《い》った。目的地へ漕《こ》ぎつけるまでにはなかなか骨が折れると思った。しかし彼女はとても見込のない無理な努力をしているという事には、ついに気がつかなかった。彼女はまた態度を一変した。
百二十八
彼女は思い切って一足飛びに飛んだ。情実に絡《から》まれた窮屈な云い廻し方を打ちやって、面《めん》と向き合ったままお秀に相見《しょうけん》しようとした。その代り言葉はどうしても抽象的にならなければならなかった。それでも論戦の刺撃で、事実の面影《おもかげ》を突きとめる方が、まだましだと彼女は思った。
「いったい一人の男が、一人以上の女を同時に愛する事ができるものでしょうか」
この質問を基点として歩を進めにかかった時、お秀はそれに対してあらかじめ準備された答を一つももっていなかった。書物と雑誌
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