事を発見した時に、お延は口ではいはい向うのいう通りを首肯《うけが》いながら、腹の中では、じれったがった。「そんな言葉の先でなく、裸でいらっしゃい、実力で相撲《すもう》を取りますから」と云いたくなった彼女は、どうしたらこの議論家を裸にする事ができるだろうと思案した。
 やがてお延の胸に分別《ふんべつ》がついた。分別とはほかでもなかった。この問題を活《い》かすためには、お秀を犠牲にするか、または自分を犠牲にするか、どっちかにしなければ、とうてい思う壺《つぼ》に入って来る訳がないという事であった。相手を犠牲にするのに困難はなかった。ただどこからか向うの弱点を突ッ付きさえすれば、それで事は足りた。その弱点が事実であろうとも仮説的であろうとも、それはお延の意とするところではなかった。単に自然の反応を目的にして試みる刺戟《しげき》に対して、真偽の吟味《ぎんみ》などは、要《い》らざる斟酌《しんしゃく》であった。しかしそこにはまたそれ相応の危険もあった。お秀は怒《おこ》るに違《ちがい》なかった。ところがお秀を怒らせるという事は、お延の目的であって、そうして目的でなかった。だからお延は迷わざるを得なかっ
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