けっして怒りのためでないという事がその時始めて解《わか》った。年来|陳腐《ちんぷ》なくらい見飽《みあ》きている単純なきまりの悪さだと評するよりほかに仕方のないこの表情は、お延をさらに驚ろかさざるを得なかった。彼女はこの表情の意味をはっきり確かめた。しかしその意味の因《よ》って来《きた》るところは、お秀の説明を待たなければまた確かめられるはずがなかった。
 お延がどうしようかと迷っているうちに、お秀はまるで木に竹を接《つ》いだように、突然話題を変化した。行《ゆき》がかり上《じょう》全然今までと関係のないその話題は、三度目にまたお延を驚ろかせるに充分なくらい突飛《とっぴ》であった。けれどもお延には自信があった。彼女はすぐそれを受けて立った。

        百二十六

 お秀の口を洩れた意外な文句のうちで、一番初めにお延の耳を打ったのは「愛」という言葉であった。この陳腐《ちんぷ》なありきたりの一語が、いかにお延の前に伏兵のような新らし味をもって起ったかは、前後の連絡を欠いて単独に突発したというのが重《おも》な原因に相違なかったが、一つにはまた、そんな言葉がまだ会話の材料として、二人の間に
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