に、お秀からいうと、親しみも何にも感じられない、あかの他人であった。したがって彼女の言葉には滑《すべ》っこい皮膚があるだけで、肝心《かんじん》の中味に血も肉も盛られていなかった。それでもお延はお秀の手料理になるこのお世辞《せじ》の返礼をさも旨《うま》そうに鵜呑《うのみ》にしなければならなかった。
しかし再度自分の番が廻って来た時、お延は二返目の愛嬌《あいきょう》を手古盛《てこも》りに盛り返して、悪くお秀に強いるほど愚かな女ではなかった。時機を見て器用に切り上げた彼女は、次に吉川夫人から煽《あお》って行こうとした。しかし前と同じ手段を用いて、ただ賞《ほ》めそやすだけでは、同じ不成蹟《ふせいせき》に陥《おち》いるかも知れないという恐れがあった。そこで彼女は善悪の標準を度外に置いて、ただ夫人の名前だけを二人の間に点出して見た。そうしてその影響次第で後《あと》の段取をきめようと覚悟した。
彼女はお秀が自分の風呂の留守《るす》へ藤井の帰りがけに廻って来た事を知っていた。けれども藤井へ行く前に、彼女がもうすでに吉川夫人を訪問している事にはまるで想《おも》い到《いた》らなかった。しかも昨日《きの
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