ために、わざとそこへ移されたように体裁《ていさい》が好かった。
 その他の特色を云うと、玄関の前に大きな鉄の天水桶《てんすいおけ》があった。まるで下町の質屋か何かを聯想《れんそう》させるこの長物《ちょうぶつ》と、そのすぐ横にある玄関の構《かまえ》とがまたよく釣り合っていた。比較的間口の広いその玄関の入口はことごとく細《ほそ》い格子《こうし》で仕切られているだけで、唐戸《からど》だの扉《ドア》だのの装飾はどこにも見られなかった。
 一口でいうと、ハイカラな仕舞《しも》うた屋《や》と評しさえすれば、それですぐ首肯《うなず》かれるこの家の職業は、少なくとも系統的に、家の様子を見ただけで外部から判断する事ができるのに、不思議なのはその主人であった。彼は自分がどんな宅《うち》へ入っているかいまだかつて知らなかった。そんな事を苦《く》にする神経をもたない彼は、他《ひと》から自分の家業柄《かぎょうがら》を何とあげつらわれてもいっこう平気であった。道楽者だが、満更《まんざら》無教育なただの金持とは違って、人柄からいえば、こんな役者向の家に住《すま》うのはむしろ不適当かも知れないくらいな彼は、極《きわ》
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