利害をよく心得ている男は世間にたんとないんだ。ただ心得てるばかりじゃない、君はそうした心得の下《もと》に、朝から晩まで寝たり起きたりしていられる男なんだ。少くともそうしなければならないと始終《しじゅう》考えている男なんだ。好いかね。その君にして――」
 津田は面倒臭そうに小林を遮《さえ》ぎった。
「よし解《わか》った。解ったよ。つまり他《ひと》と衝突するなと注意してくれるんだろう。ことに君と衝突しちゃ僕の損になるだけだから、なるべく事を穏便《おんびん》にしろという忠告なんだろう、君の主意は」
 小林は惚《とぼ》けた顔をしてすまし返った。
「何僕と? 僕はちっとも君と喧嘩をする気はないよ」
「もう解ったというのに」
「解ったらそれでいいがね。誤解のないように注意しておくが、僕は先刻《さっき》からお秀さんの事を問題にしているんだぜ、君」
「それも解ってるよ」
「解ってるって、そりゃ京都の事だろう。あっちが不首尾になるという意味だろう」
「もちろんさ」
「ところが君それだけじゃないぜ。まだほかにも響いて来るんだぜ、気をつけないと」
 小林はそこで句を切って、自分の言葉の影響を試験するために、
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