が階子段《はしごだん》を、どしどし上《のぼ》って来た。津田はおやと思った。この足音の調子から、その主がもう七分通り、彼の頭の中では推定されていた。
 彼の予覚はすぐ事実になった。彼が室《へや》の入口に眼を転ずると、ほとんどおッつかッつに、小林は貰い立ての外套《がいとう》を着たままつかつか入って来た。
「どうかね」
 彼はすぐ胡坐《あぐら》をかいた。津田はむしろ苦しそうな笑いを挨拶《あいさつ》の代りにした。何しに来たんだという心持が、顔を見ると共にもう起っていた。
「これだ」と彼は外套の袖《そで》を津田に突きつけるようにして見せた。
「ありがとう、お蔭《かげ》でこの冬も生きて行かれるよ」
 小林はお延の前で云ったと同じ言葉を津田の前で繰り返した。しかし津田はお延からそれを聴《き》かされていなかったので、別に皮肉とも思わなかった。
「奥さんが来たろう」
 小林はまたこう訊《き》いた。
「来たさ。来るのは当り前じゃないか」
「何か云ってたろう」
 津田は「うん」と答えようか、「いいや」と答えようかと思って、少し躊躇《ちゅうちょ》した。彼は小林がどんな事をお延に話したか、それを知りたかった。そ
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