り外套を放さなかった。お延は痛快な気がした。
「奥さんちょっとここで着て見てもよござんすか」
「ええ、ええ」
お延はわざと反対を答えた。そうして窮屈そうな袖《そで》へ、もがくようにして手を通す小林を、坐ったまま皮肉な眼で眺めた。
「どうですか」
小林はこう云いながら、背中をお延の方に向けた。見苦しい畳《たた》み皺《じわ》が幾筋もお延の眼に入《い》った。アイロンの注意でもしてやるべきところを、彼女はまた逆《ぎゃく》に行《い》った。
「ちょうど好いようですね」
彼女は誰も自分の傍《そば》にいないので、せっかく出来上った滑稽《こっけい》な後姿《うしろすがた》も、眼と眼で笑ってやる事ができないのを物足りなく思った。
すると小林がまたぐるりと向き直って、外套を着たなり、お延の前にどっさり胡坐《あぐら》をかいた。
「奥さん、人間はいくら変な着物を着て人から笑われても、生きている方がいいものなんですよ」
「そうですか」
お延は急に口元を締《し》めた。
「奥さんのような窮《こま》った事のない方にゃ、まだその意味が解らないでしょうがね」
「そうですか。私はまた生きてて人に笑われるくらいなら、い
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