まで送って来た彼女を顧《かえり》みた。
「よく気をつけておくれよ。昨夕見たいに寝てしまうと、不用心だからね」
「今夜も遅く御帰りになるんでございますか」
 お延はいつ帰るかまるで考えていなかった。
「あんなに遅くはならないつもりだがね」
 たまさかの夫の留守に、ゆっくり岡本で遊んで来たいような気が、お延の胸のどこかでした。
「なるたけ早く帰って来て上げるよ」
 こう云い捨てて通りへ出た彼女の足は、すぐ約束の方角へ向った。
 岡本の住居《すまい》は藤井の家とほぼ同じ見当《けんとう》にあるので、途中までは例の川沿《かわぞい》の電車を利用する事ができた。終点から一つか二つ手前の停留所で下りたお延は、そこに掛け渡した小さい木の橋を横切って、向う側の通りを少し歩いた。その通りは二三日《にさんち》前の晩、酒場《バー》を出た津田と小林とが、二人の境遇や性格の差違から来る縺《もつ》れ合《あ》った感情を互に抱きながら、朝鮮行きだの、お金さんだのを問題にして歩いた往来であった。それを津田の口から聞かされていなかった彼女は、二人の様子を想像するまでもなく、彼らとは反対の方角に無心で足を運ばせた後で、叔父《お
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