わ》は、小路《こうじ》へ曲る例の角《かど》までいっしょに来る事ができた。そこで別れる時、彼女は幌《ほろ》の中から、前に行く人達に声をかけた。けれどもそれが向うへ通じたか通じないか分らないうちに、彼女の俥《くるま》はもう電車通りを横に切れていた。しんとした小路の中で、急に一種の淋《さみ》しさが彼女の胸を打った。今まで団体的に旋回していたものが、吾知《われし》らず調子を踏《ふ》み外《はず》して、一人|圏外《けんがい》にふり落された時のように、淡いながら頼りを失った心持で、彼女は自分の宅《うち》の玄関を上った。
 下女は格子《こうし》の音を聞いても出て来なかった。茶の間には電灯が明るく輝やいているだけで、鉄瓶《てつびん》さえいつものように快い音を立てなかった。今朝《けさ》見たと何の変りもない室《へや》の中を、彼女は今朝と違った眼で見廻した。薄ら寒い感じが心細い気分を抱擁《ほうよう》し始めた。その瞬間が過ぎて、ただの淋しさが不安の念に変りかけた時、歓楽に疲れた身体《からだ》を、長火鉢《ながひばち》の前に投げかけようとした彼女は、突然勝手口の方を向いて「時、時」と下女の名前を呼んだ。同時に勝手の
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