方から岡本へ電話をかけたんじゃないか」
「ええそりゃそうよ、約束ですもの。一返《いっぺん》断ったけれども、模様次第では行けるかも知れないだろうから、もう一返その日の午《ひる》までに電話で都合を知らせろって云って来たんですもの」
「岡本からそういう返事が来たのかい」
「ええ」
しかしお延はその手紙を津田に示していなかった。
「要するに、お前はどうなんだ。行きたいのか、行きたくないのか」
津田の顔色を見定めたお延はすぐ答えた。
「そりゃ行きたいわ」
「とうとう白状したな。じゃおいでよ」
二人はこういう会話と共に午飯《ひるめし》を済ました。
四十五
手術後の夫を、やっと安静状態に寝かしておいて、自分一人下へ降りた時、お延はもう約束の時間をだいぶ後《おく》らせていた。彼女は自分の行先を車夫に教えるために、ただ一口《ひとくち》劇場の名を云ったなり、すぐ俥《くるま》に乗った。門前に待たせておいたその俥は、角の帳場にある四五台のうちで一番新らしいものであった。
小路《こうじ》を出た護謨輪《ゴムわ》は電車通りばかり走った。何の意味なしに、ただ賑《にぎ》やかな方角へ向けての
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