に零《ゼロ》であったのみならず、生理的にも案外微弱であった。
「じゃもう一度|浣腸《かんちょう》しましょう」
浣腸の結果も充分でなかった。
津田はそれなり手術台に上《のぼ》って仰向《あおむけ》に寝た。冷たい防水布がじかに皮膚に触れた時、彼は思わず冷《ひや》りとした。堅い括《くく》り枕《まくら》に着けた彼の頭とは反対の方角からばかり光線が差し込むので、彼の眼は明りに向って寝る人のように、少しも落ちつけなかった。彼は何度も瞬《まばた》きをして、何度も天井《てんじょう》を見直した。すると看護婦が手術の器械を入れたニッケル製の四角な浅い盆みたようなものを持って彼の横を通ったので、白い金属性の光がちらちらと動いた。仰向けに寝ている彼には、それが自分の眼を掠《かす》めて通り過ぎるとしか思われなかった。見てならない気味の悪いものを、ことさらに偸《ぬす》み見たのだという心持がなおのこと募《つの》った。その時表の方で鳴る電話のベルが突然彼の耳に響いた。彼は今まで忘れていたお延の事を急に思い出した。彼女の岡本へかけた用事がやっと済んだ時に、彼の療治はようやく始まったのである。
「コカインだけでやります
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