ちょっと眉《まゆ》を動かしたお延はすぐ甘垂《あまった》れるような口調を使った。
「だってこれから着物なんか着換えるのは時間がかかって大変なんですもの。せっかく着ちまったんだから、今日はこれで堪忍《かんにん》してちょうだいよ、ね」
 津田はとうとう敗北した。顔を洗っているとき、彼は下女に俥《くるま》を二台云いつけるお延の声を、あたかも自分が急《せ》き立《た》てられでもするように世話《せわ》しなく聞いた。

 普通の食事を取らない彼の朝飯《あさめし》はほとんど五分とかからなかった。楊枝《ようじ》も使わないで立ち上った彼はすぐ二階へ行こうとした。
「病院へ持って行くものを纏《まと》めなくっちゃ」
 津田の言葉と共に、お延はすぐ自分の後《うしろ》にある戸棚《とだな》を開けた。
「ここに拵《こしら》えてあるからちょっと見てちょうだい」
 よそ行着《ゆきぎ》を着た細君を労《いたわ》らなければならなかった津田は、やや重い手提鞄《てさげかばん》と小さな風呂敷包《ふろしきづつみ》を、自分の手で戸棚《とだな》から引《ひ》き摺《ず》り出した。包の中には試しに袖《そで》を通したばかりの例の褞袍《どてら》と平絎
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