りほかに仕方がないじゃないか」
「落ちつけないのは君ばかりじゃない。僕だってちっとも落ちついていられやしない」
「もったいない事をいうな。君の落ちつけないのは贅沢《ぜいたく》だからさ。僕のは死ぬまで麺麭《パン》を追《おっ》かけて歩かなければならないんだから苦しいんだ」
「しかし落ちつけないのは、現代人の一般の特色だからね。苦しいのは君ばかりじゃないよ」
小林は津田の言葉から何らの慰藉《いしゃ》を受ける気色《けしき》もなかった。
三十七
先刻《さっき》から二人の様子を眺めていた下女が、いきなり来て、わざとらしく食卓《テーブル》の上を片づけ始めた。それを相図のように、インヴァネスを着た男がすうと立ち上った。疾《と》うに酒をやめて、ただ話ばかりしていた二人も澄ましている訳に行かなかった。津田は機会を捉《とら》えてすぐ腰を上げた。小林は椅子を離れる前に、まず彼らの間に置かれたM・C・C・の箱を取った。そうしてその中からまた新らしい金口《きんぐち》を一本出してそれに火を点《つ》けた。行きがけの駄賃《だちん》らしいこの所作《しょさ》が、煙草《たばこ》の箱を受け取って袂《たも
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