終《しじゅう》自分を抑えつけて、なるべく心の色を外へ出さないようにしていた。そこに彼の誇りがあると共に、そこに一種の不快も潜《ひそ》んでいたことは、彼の気分が彼に教える事実であった。
 半日以上の暇を潰《つぶ》したこの久しぶりの訪問を、単にこういう快不快の立場から眺めた津田は、すぐその対照として活溌《かっぱつ》な吉川夫人とその綺麗《きれい》な応接間とを記憶の舞台に躍《おど》らした。つづいて近頃ようやく丸髷《まるまげ》に結い出したお延《のぶ》の顔が眼の前に動いた。
 彼は座を立とうとして小林を顧《かえり》みた。
「君はまだいるかね」
「いや。僕ももう御暇《おいとま》しよう」
 小林はすぐ吸い残した敷島《しきしま》の袋を洋袴《ズボン》の隠袋《かくし》へねじ込んだ。すると彼らの立《た》ち際《ぎわ》に、叔父が偶然らしくまた口を開いた。
「お延はどうしたい。行こう行こうと思いながら、つい貧乏暇なしだもんだから、御無沙汰《ごぶさた》をしている。宜《よろ》しく云ってくれ。お前の留守にゃ閑《ひま》で困るだろうね、彼《あ》の女《おんな》も。いったい何をして暮してるかね」
「何って別にする事もないでしょう
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