下女がそこへ顔を出した。
「あの浜のお客さまが、奥さまにお午《ひる》から滝の方へ散歩においでになりませんか、伺って来いとおっしゃいました」
「お供《とも》しましょう」清子の返事を聴いた下女は、立ち際に津田の方を見ながら「旦那様《だんなさま》もいっしょにいらっしゃいまし」と云った。
「ありがとう。時にもうお午なのかい」
「ええただいま御飯を持って参ります」
「驚ろいたな」
津田はようやく立ち上った。
「奥さん」と云おうとして、云《い》い損《そく》なった彼はつい「清子さん」と呼び掛けた。
「あなたはいつごろまでおいでです」
「予定なんかまるでないのよ。宅《うち》から電報が来れば、今日にでも帰らなくっちゃならないわ」
津田は驚ろいた。
「そんなものが来るんですか」
「そりゃ何とも云えないわ」
清子はこう云って微笑した。津田はその微笑の意味を一人で説明しようと試みながら自分の室《へや》に帰った。
[#地から2字上げ]――未完――
底本:「夏目漱石全集9」ちくま文庫、筑摩書房
1988(昭和63)年6月28日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版夏目漱石全集」筑摩書房
1971(昭和46)年4月から1972(昭和47)年1月
入力:柴田卓治
校正:伊藤時也
1999年8月12日公開
2004年2月28日修正
青空文庫作成ファイル:
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