れた。そうしてまた会った。自分を離れた以後の清子に、昔のままの眼が、昔と違った意味で、やっぱり存在しているのだと注意されたような心持のした時、津田は一種の感慨に打たれた。
「それはあなたの美くしいところです。けれどももう私を失望させる美しさに過ぎなくなったのですか。判然教えて下さい」
 津田の疑問と清子の疑問が暫時《ざんじ》視線の上で行き合った後《あと》、最初に眼を引いたものは清子であった。津田はその退《ひ》き方《かた》を見た。そうしてそこにも二人の間にある意気込《いきごみ》の相違を認めた。彼女はどこまでも逼《せま》らなかった。どうでも構わないという風に、眼をよそへ持って行った彼女は、それを床《とこ》の間《ま》に活《い》けてある寒菊の花の上に落した。
 眼で逃げられた津田は、口で追《おっ》かけなければならなかった。
「なんぼ僕だってただ吉川の奥さんの使に来ただけじゃありません」
「でしょう、だから変なのよ」
「ちっとも変な事はありませんよ。僕は僕で独立してここへ来《き》ようと思ってるところへ、奥さんに会って、始めてあなたのここにいらっしゃる事を聴かされた上に、ついお土産《みやげ》まで頼まれちまったんです」
「そうでしょう。そうでもなければ、どう考えたって変ですからね」
「いくら変だって偶然という事も世の中にはありますよ。そうあなたのように……」
「だからもう変じゃないのよ。訳さえ伺えば、何でも当り前になっちまうのね」
 津田はつい「こっちでもその訳を訊《き》きに来たんだ」と云いたくなった。しかし何にもそこに頓着《とんじゃく》していないらしい清子の質問は正直であった。
「それであなたもどこかお悪いの」
 津田は言葉少なに病気の顛末《てんまつ》を説明した。清子は云った。
「でも結構ね、あなたは。そういう時に会社の方の御都合《ごつごう》がつくんだから。そこへ行くと良人《うち》なんか気の毒なものよ、朝から晩まで忙がしそうにして」
「関君こそ酔興《すいきょう》なんだから仕方がない」
「可哀想《かわいそう》に、まさか」
「いや僕のいうのは善《い》い意味での酔興ですよ。つまり勉強家という事です」
「まあ、お上手だ事」
 この時下から急ぎ足で階子段《はしごだん》を上《のぼ》って来る草履《ぞうり》の音が聴えたので、何か云おうとした津田は黙って様子を見た。すると先刻《さっき》とは違った
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