ですもの」と弁解した彼女は、真面目《まじめ》な津田の様子を見て、後からそれを具体的に説明すべく余儀なくされた。
「なるほど、そうに違いございませんね。生きてるうちはどなたも同《おん》なじ人間で、生れ変りでもしなければ、誰だって違った人間になれっこないんだから」
「ところがそうでないよ。生きてるくせに生れ変る人がいくらでもあるんだから」
「へえそうですかね、そんな人があったら、ちっとお目にかかりたいもんだけれども」
「お望みなら逢《あ》わせてやってもいいがね」
「どうぞ」といった下女はまたげらげら笑い出した。「またこれでしょう」
 彼女は人指指《ひとさしゆび》を自分の鼻の先へ持って行った。
「旦那様《だんなさま》のこれにはとても敵《かな》いません。奥さまのお部屋をちゃんと臭《におい》で嗅《か》ぎ分ける方《かた》なんですから」
「部屋どころじゃないよ。お前の年齢《とし》から原籍から、生れ故郷から、何から何まであてるんだよ。この鼻一つあれば」
「へえ恐ろしいもんでございますね。――どうも敵わない、旦那様に会っちゃ」
 下女はこう云って立ち上った。しかし室《へや》を出《で》がけにまた一句の揶揄《やゆ》を津田に浴びせた。
「旦那様はさぞ猟がお上手でいらっしゃいましょうね」
 日当りの好い南向《みなみむき》の座敷に取り残された二人は急に静かになった。津田は縁側に面して日を受けて坐っていた。清子は欄干《らんかん》を背にして日に背《そむ》いて坐っていた。津田の席からは向うに見える山の襞《ひだ》が、幾段にも重なり合って、日向日裏《ひなたひうら》の区別を明らさまに描き出す景色が手に取るように眺められた。それを彩《いろ》どる黄葉《こうよう》の濃淡がまた鮮《あざ》やかな陰影の等差を彼の眸中《ぼうちゅう》に送り込んだ。しかし眼界の豁《ひろ》い空間に対している津田と違って、清子の方は何の見るものもなかった。見れば北側の障子《しょうじ》と、その障子の一部分を遮《さえ》ぎる津田の影像《イメジ》だけであった。彼女の視線は窮屈であった。しかし彼女はあまりそれを苦にする様子もなかった。お延ならすぐ姿勢を改めずにはいられないだろうというところを、彼女はむしろ落ちついていた。
 彼女の顔は、昨夕《ゆうべ》と反対に、津田の知っている平生の彼女よりも少し紅《あか》かった。しかしそれは強い秋の光線を直下《じか》に
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