。この単純な所作が双方の間に行われるあいだ、津田は依然として立っていなければならなかった。しかし普通の場合に起る手持無沙汰《てもちぶさた》の感じの代りに、かえって一種の気楽さを味わった彼には何の苦痛も来《こ》ずにすんだ。彼はただ間《ま》の延びた挙動の引続きとして、平生の清子と矛盾しない意味からそれを眺めた。だから昨夜《ゆうべ》の記憶からくる不審も一倍に強かった。この逼《せま》らない人が、どうしてあんなに蒼《あお》くなったのだろう。どうしてああ硬く見えたのだろう。あの驚ろき具合とこの落ちつき方、それだけはどう考えても調和しなかった。彼は夜と昼の区別に生れて初めて気がついた人のような心持がした。
彼は招ぜられない先に、まず自分から設けの席に着いた。そうして立ちながら果物《くだもの》を皿に盛るべく命じている清子を見守った。
「どうもお土産《みやげ》をありがとう」
これが始めて彼女の口を洩《も》れた挨拶《あいさつ》であった。話頭《わとう》はそのお土産を持って来た人から、その土産をくれた人の好意に及ばなければならなかった。もとより嘘《うそ》を吐《つ》く覚悟で吉川夫人の名前を利用したその時の津田には、もうごまかすという意識すらなかった。
「道伴《みちづれ》になったお爺《じい》さんに、もう少しで蜜柑をやっちまうところでしたよ」
「あらどうして」
津田は何と答えようが平気であった。
「あんまり重くって荷になって困るからです」
「じゃ来る途中|始終《しじゅう》手にでも提《さ》げていらしったの」
津田にはこの質問がいかにも清子らしく無邪気に聴《きこ》えた。
「馬鹿にしちゃいけません。あなたじゃあるまいし、こんなものを提げて、縁側をあっちへ行ったりこっちへ来たりしていられるもんですか」
清子はただ微笑しただけであった。その微笑には弁解がなかった。云い換えれば一種の余裕があった。嘘《うそ》から出立した津田の心はますます平気になるばかりであった。
「相変らずあなたはいつでも苦《く》がなさそうで結構ですね」
「ええ」
「ちっとももとと変りませんね」
「ええ、だって同《おん》なじ人間ですもの」
この挨拶《あいさつ》を聞くと共に、津田は急に何か皮肉を云いたくなった。その時皿の中へ問題の蜜柑を盛り分けていた下女が突然笑い出した。
「何を笑うんだ」
「でも、奥さんのおっしゃる事がおかしいん
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