う通りの無頼漢《ぶらいかん》だね。観察の下卑《げび》て皮肉なところから云っても、言動の無遠慮で、粗野《そや》なところから云っても」
「そうしてそれが君の軽蔑《けいべつ》に値《あたい》する所以《ゆえん》なんだ」
「もちろんさ」
「そらね。そう来るから畢竟《ひっきょう》口先じゃ駄目《だめ》なんだ。やッぱり実戦でなくっちゃ君は悟れないよ。僕が予言するから見ていろ。今に戦いが始まるから。その時ようやく僕の敵でないという意味が分るから」
「構わない、擦《す》れっ枯《か》らしに負けるのは僕の名誉だから」
「強情だな。僕と戦うんじゃないぜ」
「じゃ誰と戦うんだ」
「君は今すでに腹の中で戦いつつあるんだ。それがもう少しすると実際の行為になって外へ出るだけなんだ。余裕が君を煽動《せんどう》して無役《むえき》の負戦《まけいくさ》をさせるんだ」
津田はいきなり懐中から紙入を取り出して、お延と相談の上、餞別《せんべつ》の用意に持って来た金を小林の前へ突きつけた。
「今渡しておくから受取っておけ。君と話していると、だんだんこの約束を履行するのが厭《いや》になるだけだから」
小林は新らしい十円|紙幣《さつ》の二つに折れたのを広げて丁寧に、枚数を勘定した。
「三枚あるね」
百六十一
小林は受け取ったものを、赤裸《あかはだか》のまま無雑作《むぞうさ》に背広《せびろ》の隠袋《ポケット》の中へ投げ込んだ。彼の所作《しょさ》が平淡であったごとく、彼の礼の云《い》い方《かた》も横着であった。
「サンクス。僕は借りる気だが、君はくれるつもりだろうね。いかんとなれば、僕に返す手段のない事を、また返す意志のない事を、君は最初から軽蔑の眼をもって、認めているんだから」
津田は答えた。
「無論やったんだ。しかし貰《もら》ってみたら、いかな君でも自分の矛盾に気がつかずにはいられまい」
「いやいっこう気がつかない。矛盾とはいったい何だ。君から金を貰うのが矛盾なのか」
「そうでもないがね」と云った津田は上から下を見下《みおろ》すような態度をとった。「まあ考えて見たまえ。その金はつい今まで僕の紙入の中にあったんだぜ。そうして転瞬《てんしゅん》の間に君の隠袋の裏に移転してしまったんだぜ。そんな小説的の言葉を使うのが厭なら、もっと判然《はっきり》云おうか。その金の所有権を急に僕から君に移したものは誰
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