声を出した。
「ありゃみんな芸者なんか君」
ちょっときまりの悪い思いをさせられた津田は叱るように云った。
「馬鹿云うな」
「いや何とも限らないからね。どこにどんなものがいるか分らない世の中だから」
津田はますます声を低くした。
「だって芸者はあんな服装《なり》をしやしないよ」
「そうか。君がそう云うなら確《たしか》だろう。僕のような田舎《いなか》ものには第一その区別が分らないんだから仕方がないよ。何でも綺麗な着物さえ着ていればすぐ芸者だと思っちまうんだからね」
「相変らず皮肉《ひにく》るな」
津田は少し悪い気色《きしょく》を外へ出した。小林は平気であった。
「いや皮肉るんじゃないよ。実際僕は貧乏の結果そっちの方の眼がまだ開《あ》いていないんだ。ただ正直にそう思うだけなんだ」
「そんならそれでいいさ」
「よくなくっても仕方がない訳だがね。しかし事実どうだろう君」
「何が」
「事実当世にいわゆるレデーなるものと芸者との間に、それほど区別があるのかね」
津田は空《そら》っ惚《とぼ》ける事の得意なこの相手の前に、真面目《まじめ》な返事を与える子供らしさを超越して見せなければならなかった。同時に何とかして、ゴツンと喰《くら》わしてやりたいような気もした。けれども彼は遠慮した。というよりも、ゴツンとやるだけの言葉が口へ出て来なかった。
「笑談《じょうだん》じゃない」
「本当に笑談《じょうだん》じゃない」と云った小林はひょいと眼を上げて津田の顔を見た。津田はふと気がついた。しかし相手に何か考えがあるんだなと悟った彼は、あまりに怜俐《りこう》過ぎた。彼には澄ましてそこを通り抜けるだけの腹がなかった。それでいて当らず障《さわ》らず話を傍《わき》へ流すくらいの技巧は心得ていた。彼は小林に捕《つら》まらなければならなかった。彼は云った。
「どうだ君ここの料理は」
「ここの料理もどこの料理もたいてい似たもんだね。僕のような味覚の発達しないものには」
「不味《まず》いかい」
「不味かない、旨《うま》いよ」
「そりゃ好い案配《あんばい》だ。亭主が自分でクッキングをやるんだから、ほかよりゃ少しはましかも知れない」
「亭主がいくら腕を見せたって、僕のような口に合っちゃ敵《かな》わないよ。泣くだけだあね」
「だけど旨けりゃそれでいいんだ」
「うん旨けりゃそれでいい訳だ。しかしその旨さが十銭均
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