の極度はどこかで破裂するにきまっていた。破裂すれば、自分で自分の見識をぶち壊《こわ》すのと同じ結果に陥《おち》いるのは明暸であった。不幸な彼女はこの矛盾に気がつかずに邁進《まいしん》した。それでとうとう破裂した。破裂した後で彼女はようやく悔いた。仕合せな事に自然は思ったより残酷でなかった。彼女は自分の弱点を浚《さら》け出すと共に一種の報酬を得た。今までどんなに勝ち誇っても物足りた例のなかった夫の様子が、少し変った。彼は自分の満足する見当に向いて一歩近づいて来た。彼は明らかに妥協という字を使った。その裏に彼女の根限《こんかぎ》り掘り返そうと力《つと》めた秘密の潜在する事を暗《あん》に自白した。自白?。彼女はよく自分に念を押して見た。そうしてそれが黙認に近い自白に違いないという事を確かめた時、彼女は口惜《くや》しがると同時に喜こんだ。彼女はそれ以上夫を押さなかった。津田が彼女に対して気の毒という念を起したように、彼女もまた津田に対して気の毒という感じを持ち得たからである。
百五十一
けれども自然は思ったより頑愚《かたくな》であった。二人はこれだけで別れる事ができなかった。妙な機《はず》みからいったん収まりかけた風波がもう少しで盛り返されそうになった。
それは昂奮《こうふん》したお延の心持がやや平静に復した時の事であった。今切り抜けて来た波瀾《はらん》の結果はすでに彼女の気分に働らきかけていた。酔を感ずる人が、その酔を利用するような態度で彼女は津田に向った。
「じゃいつごろその温泉へいらっしゃるの」
「ここを出たらすぐ行こうよ。身体《からだ》のためにもその方が都合がよさそうだから」
「そうね。なるべく早くいらしった方がいいわ。行くと事がきまった以上」
津田はこれでまずよしと安心した。ところへお延は不意に出た。
「あたしもいっしょに行っていいんでしょう」
気の緩《ゆる》んだ津田は急にひやりとした。彼は答える前にまず考えなければならなかった。連れて行く事は最初から問題にしていなかった。と云って、断る事はなおむずかしかった。断り方一つで、相手はどう変化するかも分らなかった。彼が何と返事をしたものだろうと思って分別《ふんべつ》するうちに大切の機は過ぎた。お延は催促した。
「ね、行ってもいいんでしょう」
「そうだね」
「いけないの」
「いけない訳もないが
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