たもんだからね」
「あたしの聴いて悪い用事? じゃお二人の間の秘密なの?」
「そんな訳のものじゃないよ」と云った津田は、自分の上に寸分の油断なく据《す》えられたお延の細い眼を見た時に、周章《あわ》てて後を付け足した。
「また金を強乞《せび》りに来たんだ。ただそれだけさ」
「じゃあたしが聴《き》いてなぜ悪いの」
「悪いとは云やしない。聴かせたくないというまでさ」
「するとただ親切ずくで寄こして下すった手紙なのね、これは」
「まあそうだ」
今まで夫に見入っていたお延の細い眼がなお細くなると共に、微《かす》かな笑が唇《くちびる》を洩《も》れた。
「まあありがたい事」
津田は澄ましていられなくなった。彼は用意を欠いた文句を択《よ》り除《の》ける余裕を失った。
「お前だって、あんな奴《やつ》に会うのは厭《いや》なんじゃないか」
「いいえ、ちっとも」
「そりゃ嘘《うそ》だ」
「どうして嘘なの」
「だって小林は何かお前に云ったそうじゃないか」
「ええ」
「だからさ。それでお前もあいつに会うのは厭だろうと云うんだ」
「じゃあなたはあたしが小林さんからどんな事を聴いたか知っていらっしゃるの」
「そりゃ知らないよ。だけどどうせあいつのことだから碌《ろく》な事は云やしなかろう。いったいどんな事を云ったんだ」
お延は口へ出かかった言葉を殺してしまった。そうして反問した。
「ここで小林さんは何とおっしゃって」
「何とも云やしないよ」
「それこそ嘘です。あなたは隠していらっしゃるんです」
「お前の方が隠しているんじゃないかね。小林から好い加減な事を云われて、それを真《ま》に受けていながら」
「そりゃ隠しているかも知れません。あなたが隠し立てをなさる以上、あたしだって仕方がないわ」
津田は黙った。お延も黙った。二人とも相手の口を開くのを待った。しかしお延の辛防《しんぼう》は津田よりも早く切れた。彼女は急に鋭どい声を出した。
「嘘よ、あなたのおっしゃる事はみんな嘘よ。小林なんて人はここへ来た事も何にもないのに、あなたはあたしをごまかそうと思って、わざわざそんな拵《こしら》え事をおっしゃるのよ」
「拵えたって、別におれの利益になる訳でもなかろうじゃないか」
「いいえほかの人が来たのを隠すために、小林なんて人を、わざわざ引張り出すにきまってるわ」
「ほかの人? ほかの人とは」
お延の眼は床の
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