らき過ぎた。だから結果はやはり誤解と同じ事に帰着した。
百三十四
津田にはこの誤解を誤解として通しておく特別な理由があった。そうしてその理由はすでに小林の看破《かんぱ》した通りであった。だから彼はこの誤解から生じやすい岡本の好意を、できるだけ自分の便宜《べんぎ》になるように保留しようと試みた。お延を鄭寧《ていねい》に取扱うのは、つまり岡本家の機嫌《きげん》を取るのと同じ事で、その岡本と吉川とは、兄弟同様に親しい間柄である以上、彼の未来は、お延を大事にすればするほど確かになって来る道理であった。利害の論理《ロジック》に抜目のない機敏さを誇りとする彼は、吉川夫妻が表向《おもてむき》の媒妁人《ばいしゃくにん》として、自分達二人の結婚に関係してくれた事実を、単なる名誉として喜こぶほどの馬鹿ではなかった。彼はそこに名誉以外の重大な意味を認めたのである。
しかしこれはむしろ一般的の内情に過ぎなかった。もう一皮|剥《む》いて奥へ入ると、底にはまだ底があった。津田と吉川夫人とは、事件がここへ来るまでに、他人の関知しない因果《いんが》でもう結びつけられていた。彼らにだけ特有な内外の曲折を経過して来た彼らは、他人より少し複雑な眼をもって、半年前に成立したこの新らしい関係を眺めなければならなかった。
有体《ありてい》にいうと、お延と結婚する前の津田は一人の女を愛していた。そうしてその女を愛させるように仕向けたものは吉川夫人であった。世話好な夫人は、この若い二人を喰っつけるような、また引き離すような閑手段《かんしゅだん》を縦《ほしい》ままに弄《ろう》して、そのたびにまごまごしたり、または逆《のぼ》せ上《あが》ったりする二人を眼の前に見て楽しんだ。けれども津田は固く夫人の親切を信じて疑がわなかった。夫人も最後に来《きた》るべき二人の運命を断言して憚《はば》からなかった。のみならず時機の熟したところを見計って、二人を永久に握手させようと企てた。ところがいざという間際になって、夫人の自信はみごとに鼻柱を挫《くじ》かれた。津田の高慢も助かるはずはなかった。夫人の自信と共に一棒に撲殺《ぼくさつ》された。肝心《かんじん》の鳥はふいと逃げたぎり、ついに夫人の手に戻って来なかった。
夫人は津田を責めた。津田は夫人を責めた。夫人は責任を感じた。しかし津田は感じなかった。彼は今日《
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