慎《つつ》しんでいた。ところがお秀との悶着《もんちゃく》が、偶然にもお延の胸にあるこの扉を一度にがらりと敲《たた》き破った。しかもお延自身|毫《ごう》もそこに気がつかなかった。彼女は自分を夫の前に開放しようという努力も決心もなしに、天然自然自分を開放してしまった。だから津田にもまるで別人《べつにん》のように快よく見えた。
 二人はこういう風で、いつになく融《と》け合った。すると二人が融け合ったところに妙な現象がすぐ起った。二人は今まで回避していた問題を平気で取り上げた。二人はいっしょになって、京都に対する善後策を講じ出した。
 二人には同じ予感が働いた。この事件はこれだけで片づくまいという不安が双方の心を引き締めた。きっとお秀が何かするだろう。すれば直接京都へ向ってやるに違いない。そうしてその結果は自然二人の不利益となるにきまっている。――ここまでは二人の一致する点であった。それから先が肝心《かんじん》の善後策になった。しかしそこへ来ると意見が区々《まちまち》で、容易に纏《まと》まらなかった。
 お延は仲裁者として第一に藤井の叔父を指名した。しかし津田は首を掉《ふ》った。彼は叔父も叔母もお秀の味方である事をよく承知していた。次に津田の方から岡本はどうだろうと云い出した。けれども岡本は津田の父とそれほど深い交際がないと云う理由で、今度はお延が反対した。彼女はいっそ簡単に自分が和解の目的で、お秀の所へ行って見ようかという案を立てた。これには津田も大した違存《いぞん》はなかった。たとい今度の事件のためでなくとも、絶交を希望しない以上、何らかの形式のもとに、両家の交際は復活されべき運命をもっていたからである。しかしそれはそれとして、彼らはもう少し有効な方法を同時に講じて見たかった。彼らは考えた。
 しまいに吉川の名が二人の口から同じように出た。彼の地位、父との関係、父から特別の依頼を受けて津田の面倒を見てくれている目下の事情、――数えれば数えるほど、彼には有利な条件が具《そなわ》っていた。けれどもそこにはまた一種の困難があった。それほど親しく近づき悪《にく》い吉川に口を利《き》いて貰《もら》おうとすれば、是非共その前に彼の細君を口説《くど》き落さなければならなかった。ところがその細君はお延にとって大の苦手《にがて》であった。お延は津田の提議に同意する前に、少し首を傾けた。細
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