するような不体裁《ふていさい》は演じなかった。ただ津田は兄だけに、また男だけに、話を一点に括《くく》る手際《てぎわ》をお秀より余計にもっていた。
「つまりお前は兄さんに対して同情がないと云うんだろう」
「そうじゃないわ」
「でなければお延に同情がないというんだろう。そいつはまあどっちにしたって同《おん》なじ事だがね」
「あら、嫂《ねえ》さんの事をあたし何とも云ってやしませんわ」
「要するにこの事件について一番悪いものはおれだと、結局こうなるんだろう。そりゃ今さら説明を伺わなくってもよく兄さんには解ってる。だから好いよ。兄さんは甘んじてその罰を受けるから。今月はお父さんからお金を貰わないで生きて行くよ」
「兄さんにそんな事ができて」
 お秀の兄を冷笑《あざ》けるような調子が、すぐ津田の次の言葉を喚《よ》び起《おこ》した。
「できなければ死ぬまでの事さ」
 お秀はついにきりりと緊《しま》った口元を少し緩《ゆる》めて、白い歯を微《かす》かに見せた。津田の頭には、電灯の下で光る厚帯を弄《いじ》くっているお延の姿が、再び現れた。
「いっそ今までの経済事情を残らずお延に打ち明けてしまおうか」
 津田にとってそれほど容易《たやす》い解決法はなかった。しかし行きがかりから云うと、これほどまた困難な自白はなかった。彼はお延の虚栄心をよく知り抜いていた。それにできるだけの満足を与える事が、また取《とり》も直《なお》さず彼の虚栄心にほかならなかった。お延の自分に対する信用を、女に大切なその一角《いっかく》において突き崩《くず》すのは、自分で自分に打撲傷《だぼくしょう》を与えるようなものであった。お延に気の毒だからという意味よりも、細君の前で自分の器量を下げなければならないというのが彼の大きな苦痛になった。そのくらいの事をと他《ひと》から笑われるようなこんな小さな場合ですら、彼はすぐ動く気になれなかった。家には現に金がある、お延に対して自己の体面を保つには有余《ありあま》るほどの金がある。のにという勝手な事実の方がどうしても先に立った。
 その上彼はどんな時にでもむかっ腹を立てる男ではなかった。己《おの》れを忘れるという事を非常に安っぽく見る彼は、また容易に己れを忘れる事のできない性質《たち》に父母から生みつけられていた。
「できなければ死ぬまでさ」と放《ほう》り出《だ》すように云った後で
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