ようにむやみに上流社会の悪体《あくたい》を吐《つ》くものにはけっして会った事がなかった。
お延は突然気がついた。
「自分の今相手にしているのは、平生考えていた通りの馬鹿でなくって、あるいは手に余る擦《す》れッ枯《か》らしじゃなかろうか」
軽蔑《けいべつ》の裏に潜《ひそ》んでいる不気味な方面が強く頭を持上《もちや》げた時、お延の態度は急に改たまった。すると小林はそれを見届けた証拠《しょうこ》にか、またはそれに全くの無頓着《むとんじゃく》でか、アははと笑い出した。
「奥さんまだいろいろ残ってますよ。あなたの知りたい事がね」
「そうですか。今日はもうそのくらいでたくさんでしょう。あんまり一度《いちど》きに伺ってしまうと、これから先の楽しみがなくなりますから」
「そうですね、じゃ今日はこれで切り上げときますかな。あんまり奥さんに気を揉《も》ませて、歇斯的里《ヒステリ》でも起されると、後《あと》でまた僕の責任だなんて、津田君に恨《うら》まれるだけだから」
お延は後《うしろ》を向いた。後は壁であった。それでも茶の間に近いその見当《けんとう》に、彼女はお時の消息を聞こうとする努力を見せた。けれども勝手口は今まで通り静かであった。疾《と》うに帰るべきはずのお時はまだ帰って来なかった。
「どうしたんでしょう」
「なに今に帰って来ますよ。心配しないでも迷児《まいご》になる気遣《きづかい》はないから大丈夫です」
小林は動こうともしなかった。お延は仕方がないので、茶を淹《い》れ代《か》えるのを口実に、席を立とうとした。小林はそれさえ遮《さえ》ぎった。
「奥さん、時間があるなら、退屈凌《たいくつしの》ぎに幾らでも先刻《さっき》の続きを話しますよ。しゃべって潰《つぶ》すのも、黙って潰すのも、どうせ僕見たいな穀潰《ごくつぶ》しにゃ、同《おん》なし時間なんだから、ちっとも御遠慮にゃ及びません。どうです、津田君にはあれでまだあなたに打ち明けないような水臭いところがだいぶあるんでしょう」
「あるかも知れませんね」
「ああ見えてなかなか淡泊《たんぱく》でないからね」
お延ははっと思った。腹の中で小林の批評を首肯《うけが》わない訳に行かなかった彼女は、それがあたっているだけになおの事感情を害した。自分の立場を心得ない何という不作法《ぶさほう》な男だろうと思って小林を見た。小林は平気で前の言葉を繰
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