いて来たがります。しかし僕はまた妹をどうしても伴《つ》れて行く事ができないのです。二人いっしょにいるよりも、二人離れ離れになっている方が、まだ安全だからです。人に殺される危険がまだ少ないからです」
お延は少し気味が悪くなった。早く帰って来てくれればいいと思うお時はまだ帰らなかった。仕方なしに彼女は話題を変えてこの圧迫から逃《のが》れようと試みた。彼女はすぐ成功した。しかしそれがために彼女はまたとんでもない結果に陥《おちい》った。
八十三
特殊の経過をもったその時の問答は、まずお延の言葉から始まった。
「しかしあなたのおっしゃる事は本当なんでしょうかね」
小林ははたして沈痛らしい今までの態度をすぐ改めた。そうしてお延の思わく通り向うから訊《き》き返して来た。
「何がです、今僕の云った事がですか」
「いいえ、そんな事じゃないの」
お延は巧みに相手を岐路《わきみち》に誘い込んだ。
「あなた先刻《さっき》おっしゃったでしょう。近頃津田がだいぶ変って来たって」
小林は元へ戻らなければならなかった。
「ええ云いました。それに違ないから、そう云ったんです」
「本当に津田はそんなに変ったでしょうか」
「ええ変りましたね」
お延は腑《ふ》に落《お》ちないような顔をして小林を見た。小林はまた何か証拠《しょうこ》でも握っているらしい様子をしてお延を見た。二人がしばらく顔を見合せている間、小林の口元には始終《しじゅう》薄笑いの影が射していた。けれどもそれは終《つい》に本式の笑いとなる機会を得ずに消えてしまわなければならなかった。お延は小林なんぞに調戯《からか》われる自分じゃないという態度を見せたのである。
「奥さん、あなた自分だって大概気がつきそうなものじゃありませんか」
今度は小林の方からこう云ってお延に働らきかけて来た。お延はたしかにそこに気がついていた。けれども彼女の気がついている夫の変化は、全く別ものであった。小林の考えている、少なくとも彼の口にしている、変化とはまるで反対の傾向を帯びていた。津田といっしょになってから、朧気《おぼろげ》ながらしだいしだいに明るくなりつつあるように感ぜられるその変化は、非常に見分けにくい色調《しきちょう》の階段をそろりそろりと動いて行く微妙なものであった。どんな鋭敏な観察者が外部《そと》から覗《のぞ》いてもとうてい判
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