どこにも認められなかった。
「ただ念のためにですよ。あとでわたくしがまた何とか云われると困りますから」
 お延はそれでも小林が気を悪くしない用心に、こんな弁解がましい事を附け加えずにはいられなかった。
 お時が自働電話へ駈《か》けつけて津田の返事を持って来る間、二人はなお対座した。そうして彼女の帰りを待ち受ける時間を談話で繋《つな》いだ。ところがその談話は突然な閃《ひら》めきで、何にも予期していなかったお延の心臓を躍《おど》らせた。

        八十二

「津田君は近頃だいぶおとなしくなったようですね。全く奥さんの影響でしょう」
 お時が出て行くや否や、小林は藪《やぶ》から棒《ぼう》にこんな事を云い出した。お延は相手が相手なので、当《あた》らず障《さわ》らずの返事をしておくに限ると思った。
「そうですか。私自身じゃ影響なんかまるでないように思っておりますがね」
「どうして、どうして。まるで人間が生れ変ったようなものです」
 小林の云い方があまり大袈裟《おおげさ》なので、お延はかえって相手を冷評《ひやか》し返してやりたくなった。しかし彼女の気位《きぐらい》がそれを許さなかったので、彼女はわざと黙っていた。小林はまたそんな事を顧慮《こりょ》する男ではなかった。秩序も段落も構わない彼の話題は、突飛《とっぴ》にここかしこを駈《か》け回《めぐ》る代りに、時としては不作法《ぶさほう》なくらい一直線に進んだ。
「やッぱり細君の力には敵《かな》いませんね、どんな男でも。――僕のような独身ものには、ほとんど想像がつかないけれども、何かあるんでしょうね、そこに」
 お延はとうとう自分を抑える事ができなくなった。彼女は笑い出した。
「ええあるわ。小林さんなんかにはとても見当《けんとう》のつかない神秘的なものがたくさんあるわ、夫婦の間には」
「あるなら一つ教えていただきたいもんですね」
「独《ひと》りものが教わったって何にもならないじゃありませんか」
「参考になりますよ」
 お延は細い眼のうちに、賢《かし》こそうな光りを見せた。
「それよりあなた御自分で奥さんをお貰《もら》いになるのが、一番|捷径《ちかみち》じゃありませんか」
 小林は頭を掻《か》く真似《まね》をした。
「貰いたくっても貰えないんです」
「なぜ」
「来てくれ手がなければ、自然貰えない訳じゃありませんか」
「日本は女の
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