こんな事で、二人の間《ま》に優劣をつける気楽な叔父を、お住とお延が馬鹿にして冷評《ひやか》した。
「ねえ、叔母さんだってそのくらいの事ならたいてい見当がつくわね」
「お前も御賞《おほめ》にあずかったって、あんまり嬉《うれ》しくないだろう」
「ええちっともありがたかないわ」
 お延の頭に、一座を切り舞わした吉川夫人の斡旋《あっせん》ぶりがまた描《えが》き出《いだ》された。
「どうもあたしそうだろうと思ったの。あの奥さんが始終《しじゅう》継子さんと、それからあの三好さんて方《かた》を、引き立てよう、引き立てようとして、骨を折っていらっしゃるんですもの」
「ところがあのお継と来たら、また引き立たない事|夥《おびただ》しいんだからな。引き立てようとすれば、かえって引き下がるだけで、まるで紙袋《かんぶくろ》を被《かぶ》った猫見たいだね。そこへ行くと、お延のようなのはどうしても得《とく》だよ。少くとも当世向《とうせいむき》だ」
「厭《いや》にしゃあしゃあしているからでしょう。何だか賞《ほ》められてるんだか、悪く云われてるんだか分らないわね。あたし継子さんのようなおとなしい人を見ると、どうかしてあんなになりたいと思うわ」
 こう答えたお延は、叔父のいわゆる当世向を発揮する余地の自分に与えられなかった、したがって自分から見ればむしろ不成効《ふせいこう》に終った、昨夕《ゆうべ》の会合を、不愉快と不満足の眼で眺めた。
「何でまたあたしがあの席に必要だったの」
「お前は継子の従姉《いとこ》じゃないか」
 ただ親類だからというのが唯一《ゆいいつ》の理由だとすれば、お延のほかにも出席しなければならない人がまだたくさんあった。その上相手の方では当人がたった一人出て来ただけで、紹介者の吉川夫婦を除くと、向うを代表するものは誰もいなかった。
「何だか変じゃないの。そうするともし津田が病気でなかったら、やっぱり親類として是非出席しなければ悪い訳になるのね」
「それゃまた別口だ。ほかに意味があるんだ」
 叔父の目的中には、昨夕《ゆうべ》の機会を利用して、津田とお延を、一度でも余計吉川夫婦に接近させてやろうという好意が含まれていたのである。それを叔父の口から判切《はっきり》聴かされた時、お延は日頃自分が考えている通りの叔父の気性《きしょう》がそこに現われているように思って、暗《あん》に彼の親切を感
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