その窓に嵌《は》めてある障子《しょうじ》は、北斎《ほくさい》の画《か》いた絵入の三国志《さんごくし》に出てくるような唐《から》めいたものである。しかもあまり綺麗《きれい》ではない。その上|室《へや》の中が妙な臭《におい》を放つ。支那人が執拗《しゅうね》く置《お》き去《ざり》にして行った臭だから、いくら綺麗好きの日本人が掃除をしたって、依然として臭い。宿では近々《きんきん》停車場《ステーション》附近へ新築をして引移るつもりだと云っていた。そうしたら、この臭だけは落ちるだろう。しかし酸っぱい御茶は奉天のあらん限り人畜に祟《たた》るものと覚悟しなければならない。
四十八
黒い柱が二本立っている。扉も黒く塗ってある。鋲《びょう》は飯茶碗を伏せたように大きく見える。支那町の真中にこんな大名屋敷に似た門があろうとは思いがけなかった。門を這入《はい》るとまた門がある。これは支那流にできていた。それを通り越すと幅一間ほどの三和土《たたき》が真直《まっすぐ》に正面まで通っている。もっとも左右共に家続きであるから、四角な箱の中をがらん胴《どう》にして、その屋根のない真中を、三和土《た
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