變な音
夏目漱石

−−−−−−−−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)眼が覺《さ》めた

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)異《い》な響|丈《だけ》が氣になつた

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)うと/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−−−−−−−−

  上

 うと/\したと思ふうちに眼が覺《さ》めた。すると、隣の室《へや》で妙な音がする。始めは何の音とも又何處から來るとも判然《はつきり》した見當が付かなかつたが、聞いてゐるうちに、段々耳の中へ纒まつた觀念が出來てきた。何でも山葵卸《わさびおろ》しで大根《だいこ》かなにかをごそごそ擦《す》つてゐるに違ない。自分は確に左樣《さう》だと思つた。夫《それ》にしても今頃何の必要があつて、隣りの室《へや》で大根卸《だいこおろし》を拵えてゐるのだか想像が付かない。
 いひ忘れたが此處は病院である。賄《まかなひ》は遙か半町も離れた二階下の臺所に行かなければ一人もゐない。病室では炊事《すゐじ》割烹《かつぱう》は無論菓子さへ禁じられてゐる。況《ま》
次へ
全10ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング