文壇の趨勢
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)懸《か》けたい

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)文学評論[#「文学評論」に傍点]
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 近頃は大分方々の雑誌から談話をしろしろと責められて、頭ががらん胴になったから、当分品切れの看板でも懸《か》けたいくらいに思っています。現に今日も一軒断わりました。向後日本の文壇はどう変化するかなどという大問題はなかなか分りにくい。いわんや二三日前まで『文学評論[#「文学評論」に傍点]』の訂正をしていて、頭が痺《しび》れたように疲れているから、早速《さっそく》に分別も浮びません。それに似寄った事をせんだってごく簡略に『秀才文壇[#「秀才文壇」に傍点]』の人に話してしまった。あいにくこの方面も種切れです。が、まあせっかくだから――いつおいでになっても、私の談話が御役に立った試がないようだから――つまらん事でも責任逃れに話しましょう。
 私が小説を書き出したのは、何年前からか確《しか》と覚えてもいないが、けっして古くはない。見方によればごく近頃であると云ってもよろしい。しかるに我が文壇の
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