まれて書を書く事もあるが、自己流で、別に手習いをした事は無い。真《ほんと》の恥を書くのである。骨董《こっとう》も好きであるが所謂《いわゆる》骨董いじりではない。第一金が許さぬ。自分の懐都合《ふところつごう》のいい物を集めるので、智識は悉無《しつむ》である。どこの産だとか、時価はどの位だとか、そんな事は一切知らぬ。然し自分の気に入らぬ物なら、何万円の高価な物でも御免《ごめん》を蒙《こうむ》る。
明窓浄机《めいそうじょうき》。これが私の趣味であろう。閑適を愛するのである。
小さくなって懐手《ふところで》して暮したい。明るいのが良い。暖かいのが良い。
性質は神経過敏の方である。物事に対して激しく感動するので困る。そうかと思うと、又神経遅鈍な処もある。意志が強くて押える力のある為めと云うのでは無かろう。全く神経の感じの鈍い処が何処《どこ》かにあるらしい。
物事に対する愛憎《あいぞう》は多い方である。手廻りの道具でも気に入ったの、嫌《きら》いなのが多いし、人でも言葉つき、態度、仕事の遣《や》り口《くち》などで好きな人と嫌いな人がある。どんなのが好きで、どんなのが嫌いかと云う事は、何《いず》れ又記す機会があろうと思う。
朝は七時過ぎ起床。夜は十一時前後に寝るのが普通である。昼食後一時間位、転寝《うたたね》をする事があるが、これをすると頭の工合《ぐあい》の大変よいように思う。出不精《でぶしょう》の方で余り出掛けぬが、時々散歩はする。俗用で外出を已《や》むなくされる事も、偶《たま》には無いではない。人を訪問に出る事はあるが、年始とか盆とかの廻礼などは絶対にしない。又する必要はないと考えて居る。
執筆する時間は別にきまりが無い。朝の事もあるし、午後や晩の事もある。新聞の小説は毎日一回ずつ書く。書き溜《た》めて置くと、どうもよく出来ぬ。矢張《やはり》一日一回で筆を止めて、後は明日まで頭を休めて置いた方が、よく出来そうに思う。一気呵成《いっきかせい》と云うような書方はしない。一回書くのに大抵三四時間もかかる。然し時に依ると、朝から夜までかかって、それでも一回の出来上らぬ事もある。時間が十分にあると思うと、矢張長時間かかる。午前中きり時間が無いと思ってかかる時には、又其の切り詰めた時間で出来る。
障子《しょうじ》に日影の射した処で書くのが一番いいが、此家ではそんな事が出来ぬか
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