の交渉なき政府の威力に本《もと》づくだけに、猶更《なおさら》の悪影響を一般社会――ことに文芸に志《こころ》ざす青年――に与うるものである。これを文芸の堕落《だらく》というのは通じる。保護というに至ってはその意味を知るに苦しまざるを得ない。
中
一家の批判を、一家として最後最上の批判と信ずるのに、何人《なんぴと》も喙《くちばし》を容《い》れようがない。けれどもそれをして比較的普遍ならしめんがため、――それを世間に通用する事実と変化せしめんがために、文芸の鑑賞に縁もゆかりもない政府の力を藉《か》りるのは卑怯の振舞である。自己の所信を客観化して公衆にしか認めしむべき根拠を有せざる時においてすら、彼らは自由に天下を欺《あざむ》くの権利をあらかじめ占有《アッシューム》するからである。
弊害はこればかりではない。既に文芸委員が政府の威力を背景に置いて、個人的ならざるべからざる文芸上の批判を国家的に膨脹《ぼうちょう》して、自己の勢力を張《は》るの具となすならば、政府はまた文芸委員を文芸に関する最終の審判者の如く見立てて、この機関を通して、尤《もっと》も不愉快なる方法によって、健
前へ
次へ
全13ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング