う意味で言えば。車夫も大工も同じく優劣はない訳である。その如《ごと》く大工と文学者にも又同じく優劣はない。又文学者も政治家も優劣はない。だから、若《も》し文学者の職業が男子の一生の事業とするに足らぬと云うならば、政治家の職業も亦《また》男子一生の事業とするに足らないとも言えるし、軍人の職業も男子の一生の事業とするに足らぬとも言える。それを又逆にして、若し、文学者の職業を男子一生の事業とするに足ると云うならば、大工も豆腐屋も下駄の歯入れ屋も男子一生の事業とするに足ると言っても差支《さしつか》えない。
 けれ共、或る標準を立てると、其間に直《す》ぐ優劣はついて来る。而《しか》して其優劣を定める標準は千差万別で、幾らでも出来る。例えば最も徳義に適《かな》ったものが最も好い職業であると、斯《こ》う云う標準も出来る。其徳義と云うものは、何《ど》う云う傾向を持ったものが徳義だとか、何う云う時代には何う云う傾向を持ったものが徳義だとか、只《ただ》、徳義と云うものを割っただけでも、幾らでも出来て来るし、其他幾らでもある。又健康と云うことを標準として、身体《からだ》に合ったものが好い職業であるとも言える
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