でやむをえず申し上げるので、もしこれを申し上げないと、いつまでたっても文学談に移る事はできないのであります。
さて抽象の結果として、時間と空間に客観的存在を与えると、これを有意義ならしむるために数《すう》というものを製造して、この両つのものを測《はか》る便宜法を講ずるのであります。世の中に単に数というような間《ま》の抜けた実質のないものはかつて存在した試しがない。今でもありません。数と云うのは意識の内容に関係なく、ただその連続的関係を前後に左右にもっとも簡単に測《はか》る符牒《ふちょう》で、こんな正体のない符牒を製造するにはよほど骨が折れたろうと思われます。
それから意識の連続のうちに、二つもしくは二つ以上、いつでも同じ順序につながって出て来るのがあります。甲の後には必ず乙が出る。いつでも出る。順序において毫《ごう》も変る事がない。するとこの一種の関係に対して吾人《ごじん》は因果《いんが》の名を与えるのみならず、この関係だけを切り離して因果の法則と云うものを捏造《ねつぞう》するのであります。捏造と云うと妙な言葉ですが、実際ありもせぬものをつくり出すのだから捏造に相違ない。意識現象に
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