約二倍くらい長いものにしてしまった。
題目の性質としては一気に読み下さないと、思索の縁を時々に切断せられて、理路の曲折、自然の興趣に伴わざるの憾《うらみ》はあるが、新聞の紙面には固《もと》より限りのある事だから、不都合《ふつごう》を忍んで、これを一二欄ずつ日ごとに分載するつもりである。
この事情のもとに成れる左の長篇は、講演として速記の体裁を具うるにも関わらず、実は講演者たる余が特に余が社のために新《あらた》に起草したる論文と見て差支《さしつかえ》なかろうと思う。これより朝日新聞社員として、筆を執《と》って読者に見《まみ》えんとする余が入社の辞に次いで、余の文芸に関する所信の大要を述べて、余の立脚地と抱負とを明かにするは、社員たる余の天下公衆に対する義務だろうと信ずる。
[#ここで字下げ終わり]
私はまだ演説ということをあまり――あまりではないほとんどやった事のない男で、頼まれた事は今まで大分ありましたけれどもみんな断ってしまいました。どうも嫌《いや》なんですな。それにできないのです。その代り講義の方はこの間まで毎日やって来ましたから、おそらく上手だろうと思うのですけれどもあい
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