うな怪しげなものでありますが、私らのような年輩の過去に比べると、今の若い人はよほど自由が利《き》いているように見えます。また社会がそれだけの自由を許しているように見えます。漢学塾へ二年でも三年でも通《かよ》った経験のある我々には豪《えら》くもないのに豪そうな顔をしてみたり、性を矯《た》めて瘠我慢《やせがまん》を言い張って見たりする癖がよくあったものです。――今でもだいぶその気味があるかも知れませんが。――ところが今の若い人は存外|淡泊《たんぱく》で、昔のような感激性の詩趣を倫理的に発揮する事はできないかも知れないが、大体吹き抜けの空筒《からづつ》で何でも隠さないところがよい。これは自分を取《と》り繕《つく》ろいたくないという結構な精神の働いている場合もありましょうし、また隠さない明けッ放しの内臓を見せても世間で別段鼻を抓《つま》んで苦《にが》い顔をするものがないからでもありましょうが、私の所へ時々若い人などが初めて訪問に来て、後から手紙などにその時の感想をありのままに書いて送ってくれる場合などでさえ思いもよらぬ告白をする事があるから面白いです。と云って大した弱点を見てくれと云わんばかり
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