うつもりで、あらかじめ下女に云いつけておいた膳《ぜん》が、時間通り出て来ないので、敬太郎は騒々しく鳴る大学の鐘に急《せ》き立てられでもするように催促をして、できるだけ早く食事を済ました。電車の中では一昨日《おととい》の晩会った田口の態度を思い浮べて、今日もまたああいう風に無雑作《むぞうさ》な取扱を受けるのか知らん、それとも向うで会うというくらいだから、もう少しは愛嬌《あいきょう》のある挨拶でもしてくれるか知らんと考えなどした。彼はこの紳士の好意で、相当の地位さえ得られるならば、多少腰を曲《かが》めて窮屈な思をするぐらいは我慢するつもりであった。けれども先刻《さっき》電話の取次に出たもののように、五分と経《た》たないうちに、言葉使いを悪い方に改められたりすると、もう不愉快になって、どうかそいつがまた取次に出なければいいがと思う。その癖《くせ》自分のかけ方の自分としては少し横風過ぎた事にはまるで気がつかない性質《たち》であった。
小川町の角で、斜《はす》に須永《すなが》の家《うち》へ曲《まが》る横町を見た時、彼ははっと例の後姿の事を思い出して、急に日蔭《ひかげ》から日向《ひなた》へ想像を
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