のを眼にするたびに、いかにもせせこましそうな心持になる。こう万事がきちりと小さく整のってかつ光っていられては窮屈でたまらないと思う。これほど小ぢんまりと几帳面《きちょうめん》に暮らして行く彼らは、おそらく食後に使う楊枝《ようじ》の削《けず》り方《かた》まで気にかけているのではなかろうかと考える。そうしてそれがことごとく伝説的の法則に支配されて、ちょうど彼らの用いる煙草盆《たばこぼん》のように、先祖代々順々に拭《ふ》き込まれた習慣を笠《かさ》に、恐るべく光っているのだろうと推察する。須永《すなが》の家《うち》へ行って、用もない松へ大事そうな雪除《ゆきよけ》をした所や、狭い庭を馬鹿丁寧《ばかていねい》に枯松葉で敷きつめた景色《けしき》などを見る時ですら、彼は繊細な江戸式の開花の懐《ふところ》に、ぽうと育った若旦那《わかだんな》を聯想《れんそう》しない訳に行かなかった。第一須永が角帯《かくおび》をきゅうと締《し》めてきちりと坐る事からが彼には変であった。そこへ長唄《ながうた》の好きだとかいう御母《おっか》さんが時々出て来て、滑《すべ》っこい癖《くせ》にアクセントの強い言葉で、舌触《したざわり
前へ 次へ
全462ページ中67ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング