いました。端艇がそこいらを漕ぎ廻って帰って来ると、年上の芸者が、宿屋のすぐ裏に繋《つな》いである和船に向って、船頭はん、その船|空《あ》いていまっかと、大きな声で聞きました。今度は和船の中に、御馳走《ごちそう》を入れて、また海の上に出る相談らしいのです。見ていると、芸者が宿の下女を使って、麦酒《ビール》だの水菓子だの三味線だのを船の中へ運び込ましておいて、しまいに自分達も乗りました。ところが肝心《かんじん》の御客はよほど威勢のいい男で、遥《はる》か向うの方にまだ端艇を漕ぎ廻していました。誰も乗せ手がなかったと見えて、今度は黒裸《くろはだか》の浦の子僧を一人|生捕《いけど》っていました。芸者はあきれた顔をして、しばらくその方を眺めていましたが、やがて根《こん》かぎりの大きな声で、阿呆《あほう》と呼びました。すると阿呆と呼ばれた客が端艇をこっちへ漕《こ》ぎ戻して来ました。僕は面白い芸者でまた面白い客だと思いました。(午前十一時)」
「僕がこんなくだくだしい事を物珍らしそうに報道したら、叔父さんは物数奇《ものずき》だと云って定めし苦笑なさるでしょう。しかしこれは旅行の御蔭で僕が改良した証拠《
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