っと旅行して来るつもりだから暇乞《いとまごい》に来たと告げた。僕は成績もまだ分らないのに、遠く走る彼の心理状態を疑ってまた多少の不安を感じた。彼は京都附近から須磨《すま》明石《あかし》を経て、ことに因《よ》ると、広島|辺《へん》まで行きたいという希望を述べた。僕はその旅行の比較的|大袈裟《おおげさ》なのに驚ろいた。及第とさえきまっていればそれでも好かろうがと間接に不賛成の意を仄《ほの》めかして見ると、彼は試験の結果などには存外冷淡な挨拶《あいさつ》をした。そんな事に気を遣《つか》う叔父さんこそ平生にも似合わしからんじゃありませんかと云って、ほとんど相手にならなかった。話しているうちに、僕は彼の思い立《たち》が及落の成績に関係のない別方面の動機から萌《きざ》しているという事を発見した。
「実はあの事件以来妙に頭を使うので、近頃では落ちついて書斎に坐《すわ》っている事が困難になりましてね。どうしても旅行が必要なんですから、まあ試験を中途で已《や》めなかったのが感心だぐらいに賞《ほ》めて許して下さい」
「そりゃ御前の金で御前の行きたい所へ行くのだから少しも差支《さしつかえ》はないさ。考えて見
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