できないとも告げた。この曖昧《あいまい》な男の事を僕はなお委《くわ》しく聞いて見て、彼が今|上海《シャンハイ》にいる事を確かめた。上海にいるけれどもいつ帰るか分らないという事も確かめた。彼と千代子との間柄はその後何らの発展も見ないが、信書の往復はいまだに絶えない、そうしてその信書はきっと父母《ふぼ》が眼を通した上で本人の手に落つるという条件つきの往復であるという事まで確めた。僕は一も二もなく、千代子には其男《それ》が好いじゃないかと云った。田口はまだどこかに慾があるのか、または別に考《かんがえ》を有っているのか、そうするつもりだとは明言しなかった。高木のいかなる人物かをまるで解しない僕が、それ以上勧める権利もないから、僕はついそのままにして引き取った。
僕と市蔵はその後久しく会わなかった。久しくと云ったところでわずか一カ月半ばかりの時日に過ぎないのだが、僕には卒業試験を眼の前に控えながら、家庭問題に屈托《くったく》しなければならない彼の事が非常に気にかかった。僕はそっと姉を訪《たず》ねてそれとなく彼の近況を探って見た。姉は平気で、何でもだいぶ忙がしそうだよ、卒業するんだからそのはずさ
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