している。彼は自己の幸福のために、どうかして翩々《へんぺん》たる軽薄才子になりたいと心《しん》から神に念じているのである。軽薄に浮かれ得るよりほかに彼を救う途《みち》は天下に一つもない事を、彼は、僕が彼に忠告する前に、すでに承知していた。けれども実行はいまだにできないでもがいている。

        二

 僕はこういう市蔵を仕立て上げた責任者として親類のものから暗《あん》に恨《うら》まれているが、僕自身もその点については疚《や》ましいところが大いにあるのだから仕方がない。僕はつまり性格に応じて人を導く術《すべ》を心得なかったのである。ただ自分の好尚《こうしょう》を移せるだけ市蔵の上に移せばそれで充分だという無分別から、勝手しだいに若いものの柔らかい精神を動かして来たのが、すべての禍《わざわい》の本《もと》になったらしい。僕がこの過失に気がついたのは今から二三年前である。しかし気がついた時はもう遅かった。僕はただなす能力のない手を拱《こま》ぬいて、心の中《うち》で嘆息しただけであった。
 事実を一言《いちごん》でいうと、僕の今やっているような生活は、僕に最も適当なので、市蔵にはけっし
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