かった。
「結《い》えたから見てちょうだい」
 僕は僕の前にすぐこう云いながら坐る彼女を見た。
「おかしいでしょう。久しく結わないから」
「大変美くしくできたよ。これからいつでも島田に結《ゆ》うといい」
「二三度|壊《こわ》しちゃ結い、壊しちゃ結いしないといけないのよ。毛が馴染《なず》まなくって」
 こんな事を聞いたり答えたり三四|返《へん》しているうちに、僕はいつの間にか昔と同じように美くしい素直な邪気のない千代子を眼の前に見る気がし出した。僕の心持が何かの調子で和《やわ》らげられたのか、千代子の僕に対する態度がどこかで角度を改ためたのか、それは判然《はんぜん》と云い悪《にく》い。こうだと説明のできる捕《とらえ》どころは両方になかったらしく記憶している。もしこの気易《きやす》い状態が一二時間も長く続いたなら、あるいは僕の彼女に対して抱《いだ》いた変な疑惑を、過去に溯《さかの》ぼって当初から真直《まっすぐ》に黒い棒で誤解という名の下《もと》に消し去る事ができたかも知れない。ところが僕はつい不味《まず》い事をしたのである。

        三十四

 それはほかでもない。しばらく千代子
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