その時の自分を自分で想像する事ができなかった。始めは人間の元来からの作りが違うんだから、とてもこんな真似《まね》はしえまいという見地から、すぐこの問題を棄却《ききゃく》しようとした。次には、僕でも同じ程度の復讐《ふくしゅう》が充分やって除《の》けられるに違いないという気がし出した。最後には、僕のように平生は頭と胸の争いに悩んでぐずついているものにして始めてこんな猛烈な兇行を、冷静に打算的に、かつ組織的に、逞《たく》ましゅうするのだと思い出した。僕は最後になぜこう思ったのか自分にも分らない。ただこう思った時急に変な心持に襲われた。その心持は純然たる恐怖でも不安でも不快でもなく、それらよりは遥《はる》かに複雑なものに見えた。が、纏《まとま》って心に現われた状態から云えば、ちょうどおとなしい人が酒のために大胆になって、これなら何でもやれるという満足を感じつつ、同時に酔に打ち勝たれた自分は、品性の上において平生の自分より遥に堕落したのだと気がついて、そうして堕落は酒の影響だからどこへどう避けても人間としてとても逃《のが》れる事はできないのだと沈痛に諦《あき》らめをつけたと同じような変な心持であ
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