してくれた言葉であった。彼女は両手で桶《おけ》を抑《おさ》えたまま、船縁《ふなべり》から乗り出した身体《からだ》を高木の方へ捻《ね》じ曲げて、「道理《どうれ》で見えないのね」といったが、そのまま水に戯《たわむ》れるように、両手で抑えた桶をぶくぶく動かしていた。百代子が向うの方から御姉さんと呼んだ。吾一は居所も分らない蛸をむやみに突き廻した。突くには二間ばかりの細長い女竹《めだけ》の先に一種の穂先を着けた変なものを用いるのである。船頭は桶を歯で銜《くわ》えて、片手に棹《さお》を使いながら、船の動いて行くうちに、蛸の居所を探しあてるや否《いな》や、その長い竹で巧みにぐにゃぐにゃした怪物を突き刺した。
蛸は船頭一人の手で、何疋《なんびき》も船の中に上がったが、いずれも同じくらいな大きさで、これはと驚ろくほどのものはなかった。始めのうちこそ皆《みんな》珍らしがって、捕《と》れるたびに騒いで見たが、しまいにはさすが元気な叔父も少し飽《あ》きて来たと見えて、「こう蛸ばかり捕っても仕方がないね」と云い出した。高木は煙草《たばこ》を吹かしながら、舟底《ふなぞこ》にかたまった獲物《えもの》を眺め始めた
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