受け取って、最後に一枚の硝子越に海の底を眺めたが、かねて想像したと少しも異なるところのない極《きわ》めて平凡な海の底が眼に入《い》っただけである。そこには小《ち》さい岩が多少の凸凹《とつおう》を描いて一面に連《つら》なる間に、蒼黒《あおぐろ》い藻草《もくさ》が限りなく蔓延《はびこ》っていた。その藻草があたかも生温《なまぬ》るい風に嬲《なぶ》られるように、波のうねりで静かにまた永久に細長い茎を前後に揺《うご》かした。
「市《いっ》さん蛸が見えて」
「見えない」
僕は顔を上げた。千代子はまた首を突込《つっこ》んだ。彼女の被《かぶ》っていたへなへなの麦藁帽子《むぎわらぼうし》の縁《ふち》が水に浸《つか》って、船頭に操《あや》つられる船の勢に逆《さか》らうたびに、可憐な波をちょろちょろ起した。僕はその後《うしろ》に見える彼女の黒い髪と白い頸筋《くびすじ》を、その顔よりも美くしく眺めていた。
「千代ちゃんには、目付《めっ》かったかい」
「駄目よ。蛸《たこ》なんかどこにも泳いでいやしないわ」
「よっぽど慣れないとなかなか目付《めっ》ける訳に行かないんだそうです」
これは高木が千代子のために説明
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