ちゃどうだ。あっちの方が広くって楽《らく》なようだから」
「なぜ、ここにいちゃ邪魔なの」
千代子はそう云ったまま動こうとしなかった。僕には高木がいるからあっちへ行けというのだというような説明は、露骨と聞こえるにしろ、厭味《いやみ》と受取られるにしろ、全く口にする勇気は出なかった。ただ彼女からこう云われた僕の胸に、一種の嬉《うれ》しさが閃《ひら》めいたのは、口と腹とどう裏表になっているかを曝露《ばくろ》する好い証拠《しょうこ》で、自分で自分の薄弱な性情を自覚しない僕には痛い打撃であった。
昨日《きのう》会った時よりは気のせいか少し控目になったように見える高木は、千代子と僕の間に起ったこの問答を聞きながら知らぬふりをしていた。船が磯《いそ》を離れたとき、彼は「好い案排《あんばい》に空模様が直って来ました。これじゃ日がかんかん照るよりかえって結構です。船遊びには持って来いという御天気で」というような事を叔父と話し合ったりした。叔父は突然大きな声を出して、「船頭、いったい何を捕《と》るんだ」と聞いた。叔父もその他のものも、この時まで何を捕るんだかいっこう知らずにいたのである。坊主頭の船頭は
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